複雑なバックグラウンドの補正
キャピラリーに充填させた試料を透過法で測定した場合、キャピラリー特有の複雑なバックグランドが出ます。 このせいでリートベルト解析をする場合にバックグランドの精密化が困難となり、結果として精密化が出来ない場合もあります。 しかし、バックグランドの形はキャピラリーの材質によって決まった形になるので空のキャピラリーを測定し、 Rietan-2000の機能により補正することが可能となります。
メニュー
はじめに
準備する物
空のキャピラリーを測定する
解析のためのbkgファイルの作成
insファイルの準備
結果
おまけ-1
おまけ-2
[はじめに]
殆どの実験室系X線回折装置は反射法であるブラッグ-ブレンターノ光学系ですが、
放射光施設ではいろいろな理由(測定時間が短いなど)でデバイシェラー光学系がよく使われます。
また、実験室系のX線回折装置の中にはデバイシェラー光学系が採用されている装置もあります。
通常透過法で測定する場合、試料をキャピラリーに充填させて測定を行います。そのため、反射法と違い試料以外の散乱も検出されます。
(反射法でも試料の厚みが薄い場合、試料板からの散乱が出ます)
反射法と透過法のイメージ図を以下に示します。
透過法で測定したCeO2の図は以下のようになります。キャピラリーは石英で測定時間は5分です。
10°付近にキャピラリーによるバックグランドが出ていることがわかります。
このページではキャピラリーによるバックグランドを補正する方法を紹介します。
[準備する物]
実際に使用したキャピラリーから試料を抜いてキャピラリーのみを測定すればよいのですが、
一度充填させたキャピラリーから試料を抜くことはまず無理です。
そのため、キャピラリーのみを測定する場合は、充填させていないキャピラリーを用意します。
注意点は同じ材質、同じ径、同じメーカーのキャピラリーを用意することです。
[空のキャピラリーを測定する]
測定自体は通常測定する方法と同じですが、測定時間(照射時間)まで同じにする必要はありません。
しかし、温度変化させた場合、その温度で空のキャピラリーを測定した方が良いです(これも測定時間を一緒にする必要はありません)。
また、途中で波長を変えた場合、その波長でも空のキャピラリーを測定します。
CeO2を測定した際に使用した石英キャピラリーの場合、以下のようになります。
[解析のためのbkgファイルの作成]
空のキャピラリーを測定してバックグラウンドを補正する場合、空のキャピラリーの強度データを使うため入力ファイルが一つ増えます。
空のキャピラリーの強度データ*.bkgは測定した試料の強度データと同じデータ点数にします。
例で使用したCeO2は強度データ点数が7520だったので、バックグラウンドファイルも同様に7520点にします。
普通に一次元化すれば、だいたい同じデータ点数になりますが、稀に最後の数点分ずれることがあるので、付けたり足り削除したりします。
また、intファイルではヘッダーに入力しなければいけないことがありますが、以下の通りbkgファイルでは回折角と回折強度のみにします。
準備が出来たらファイル内は以下のようになるはずです。(DD2.batを使用する場合はbatファイルは必要ありません)
[insファイルの準備]
insファイル内で、**.bkgを使ってバックグラウンドを精密化させるように指定します。
450行目くらいに以下のような文があります。
------------------------------------------------------------------------------------------
If NMODE <> 1 then
NRANGE = 0: バックグラウンド・パラメーターを精密化する.
NRANGE = 1! バックグラウンドを*.bkgから読み込んだ指定2θでの(平滑化)値に固定する.
NRANGE = 2! すべての測定点でのバックグラウンドを*.bkgから読み込んだ値に固定する.
NRANGE = 3! バックグラウンド = (*.bkgから読み込んだ値)*(ルジャンドル直交多項式).
end if
------------------------------------------------------------------------------------------
ここで、NRANGE = 3を有効にします。
↓
------------------------------------------------------------------------------------------
If NMODE <> 1 then
NRANGE = 0! バックグラウンド・パラメーターを精密化する.
NRANGE = 1! バックグラウンドを*.bkgから読み込んだ指定2θでの(平滑化)値に固定する.
NRANGE = 2! すべての測定点でのバックグラウンドを*.bkgから読み込んだ値に固定する.
NRANGE = 3: バックグラウンド = (*.bkgから読み込んだ値)*(ルジャンドル直交多項式).
end if
------------------------------------------------------------------------------------------
[結果]
準備が出来たら後は通常通り解析を行えば良いだけです。
(※0°〜4.99°と75.01°〜は切ってあります。)
[おまけ-1]
bkg加工
サンプルと同じ測定時間で同じ径・材質のキャピラリーの回折パターンをサンプルデータと並べても、以下のようにぴったり合うことはありません。
これは、キャピラリーから出た散乱波がサンプルに吸収されたり、同じ径・材質のキャピラリーでも一本一本ばらつきがあったりするためです。
そのため、バックグラウンドデータを表計算ソフト(エクセルなど)を用いて加工して、bkgファイルを作ります。
今回の例で示したbkgファイルは強度データを二分の一にしました。重ねてみると以下のようになります。
このように、解析前に一度サンプルデータを重ね合わせてみてから、bkgファイルを作った方が良いです。
特に、MEMまでやる場合はそれなりに測定時間が掛かってしまうので、それと同じ時間掛けてキャピラリーのみを測るのは勿体無いです。
5分測定のbkgファイルがあれば同じ温度ならば、そのbkgファイルで事足ります。
ただ、温度変化させた場合はその温度でまたバックグランドのみを測った方が良いと思います。
温度変化させるとバックグラウンドのコブもシフトしますので。これも加工しようとすればできます。加工方法は上述と同じく、表計算ソフトでデータを重ねて、この場合は回折角をシフトさせてbkgファイルを作る。
参考までに、bkgファイル無し、無加工bkgファイル、加工bkgファイルの解析結果を並べます。
[おまけ-2]
キャピラリーの種類について
キャピラリーはいろいろな種類があります。内径は0.08mm〜5.0mmまであり、材質も様々です。
どれを使えばいいか悩みどころですが、ここでは私の独断と偏見からキャピラリーについて書き記します。
私はキャピラリーから出るバックグラウンドを参考にして、どのキャピラリーを選ぶか決めますので、バックグランドを基に話を進めます。
まず、私が知っているキャピラリーは以下の4種類です。
1. 石英ガラスキャピラリー
2. リンデマンガラスキャピラリー
3. ボロシリケートキャピラリー
4. ソーダガラスキャピラリー
それぞれの回折パターンを一つの図に並べると以下のようになります。
それぞれについて、私が感じた長所と短所は以下の通りです。
石英ガラス
長所
・融点が高いため、高温測定が可能で300℃以上の測定には殆どこれを用いる
・丈夫なため、サンプリング中に折れにくい
短所
・バックグラウンドが高い
・X線の吸収計数が高いので測定時間が掛かる
リンデマンガラス
長所
・バックグラウンドが最も低いので、室温測定は殆どこれを用いる
・bkgファイルを使わなくてもよい場合がある
短所
・300℃くらいから軟化するため、高温実験には制限がある
・もろいため、サンプリング中によく折れる
ボロシリケート
長所
・X線の吸収係数が低いので、試料の反射が小さい時にはこれが最適
・丈夫なため、サンプリング中に折れにくい
短所
・バックグランドが高い
ソーダガラス
長所
・値段が安い
短所
・バックグラウンドが高い
おすすめは、
300℃以上の高温に実験 → 石英ガラスキャピラリー
低温から300℃までの実験 → リンデマンガラスキャピラリー
内径はX線の吸収とサンプリングのやり易さから0.2〜0.3mm。
キャピラリーの製造メーカー
私が知っている製造メーカーは2社でどちらともドイツの会社です。
W. Muller社とhilgenberg社ですが、日本の企業から購入可能です。
hilgenberg社製キャピラリー取扱い業者
株式会社 トーホー
W. Muller社製キャピラリー取扱い業者
株式会社 オーバーシーズ・エックスレイ・サービス